BEANSBOOK 6

『 片思いのランナー 』         永田 早紀

 

テスト前の放課後は本屋さんに寄ると決めている。

牧くんと会えるかもしれないから。

牧くんは陸上部のエース。

いつも遅くまで部活をしてて帰り道で会うことなんてないと思ってたけど、

1学期の期末テストのとき、偶然、本屋さんで会った。

(正確には、見かけた)

 

私は参考書を見に来たことも忘れて、雑誌を立ち読みするフリをしながら、

探偵みたいに牧くんを盗み見ていた。

牧くんは私には気付かなかった。

というか、去年同じクラスだっただけの私のことなんて覚えてないと思う。

ささいなことから始まった私の片思い。

牧くんを見ているだけで幸せなのだ。

 

ここ3日、会えるかどうかも分からないまま、私は本屋さんで張り込んでいる。

今日は文庫本コーナーで。

その時、入り口が開き、牧くんがお店に入ってきた。

「来た!」

私は心の中で叫ぶ。

それから、慌てて小説を読むフリをする。

牧くんは、真っ直ぐ文庫本コーナーへ向かってきて、私の横で歩みを止めた。

心臓がバクンと鳴る。

ちらりと横を見る。

牧くんはじっと本を見つめ、一冊手に取った。

なんだ、私がいたから来てくれたわけじゃなかったんだ。

肩の力が抜ける。

その瞬間、牧くんと目が合ってしまった。

牧くんは私の顔を見ると、

「おぉ。おつかれ」

と柔らかく笑った。

「お、お疲れさまです」

敬語になってしまった私に、牧くんは、ふっと優しく笑ってから、

レジへ向かった。

 

牧くんの笑顔に、私は動けなくなる。

心臓だけは勢いよく動いている。

私は視線を落とし、牧くんが買った小説をゆっくりと手に取った。

牧くんと同じ物語を読んでみたい。

同じ景色を見てみたい。

牧くんと話したい。

急に気持ちがあふれ出した。

私は急いでレジを済ますと、

小さくなっていく牧くんの背中を走って追いかけた。

 

 

【END】