BEANSBOOK 3

『プロローグ』                  永田 早紀

 

「君はもう少し本を読んだほうがいい」
と村上は言った。村上がオレに話しかけてきた初めてのことばがそれだった。

村上とは同じ高校、同じ学年。だけどクラスは違ったし、しゃべったことはなかった。
村上 健志。
学校でその名前を知らないやつは誰もいない。学校の廊下に貼り出される成績上位者の一覧にいつも村上の名前があった(ほとんど1位だった)。

そんな村上と、偶然、駅前の本屋で会った。
「あ、村上だ」とは思ったけど、友達じゃないから声はかけなかった。
オレは本屋の入り口から真っ直ぐマンガコーナーに向かう。もうワンピースの新刊が出ていた。ヤバい。今月のこづかいは、もうほとんどない。でも来月まで待つのはイヤだしな。なんて考えていると、文庫本のコーナーにいた村上と目が合った。村上はゆっくりオレのほうへ近付いてきて言った。
「君はもう少し本を読んだほうがいい」
はぁ?と思った。なに、うぜーこと言ってんだ?と思いながら顔を上げると、意外にも村上は小さく笑っていた。けしてバカにした笑いじゃなかった。オレは驚いて、言おうと思っていた「おまえ、何言ってんの?うぜー」というセリフが消えてしまった。
代わりに「どんな本を読んだらいいんだよ」と返していた。本なんて、ちゃんと読んだことないのに。
村上は小さく笑ったままスッと動き、1冊の本を手に取った。辞書みたいにカバーに入った本だった。
オレの手に本が乗せられる。ずっしりと重たい。
「はてしない物語?」
オレがタイトルを読み上げると、村上はうれしそうに、うなずいた。
「マンガもいいけど、本の中ならもっと冒険できると俺は思う。俺が持ってる本、よかったら貸すけど?」
と村上は言った。オレは「本の中ならもっと冒険できる」ということばにワクワクしていた。こいつも冒険が好きなのか?
初めて本を読んでみたいと思った。それと同時に村上ともっとしゃべってみたいとも思った。
でもあんまり唐突で、上から目線な気がして、ちょっと腹が立ったのでオレは一言言ってやった。
「村上、おまえはもう少し、色んな友達を作ったほうがいい」
村上がブッーと笑い出しながら、聞き返した。
「どんな友達を作ったらいいんだよ」
オレは自信たっぷりに自分を指差した。

【END】