BEANSBOOK 4

『秘密』                          永田 早紀

 

秘密を打ち明けた。

秋風吹く、珈琲屋さんの前で。

 

「今から一杯ずつお淹れしますので、しばらくお時間をいただけますか?」

 

テイクアウトをお願いしたら、店主らしき男性が穏やかに言うので、

仕事中のお使いだということを忘れたふりして、店の外に置かれたベンチに並んで座った。

 

君と私。

 

外は暑くもなく、寒くもなく、長袖のシャツの裾が緩く風になびいた。

コーヒーの香ばしい香りに包まれて、なんだかすごくいい気持ちだった。

そうしたら、言葉がつるりと唇からこぼれた。

 

「私ね、秘密があるの」

 

「秘密、ですか?」

 

君は興味があるのかないのか、わからないトーンで言った。相変わらずの敬語で。

 

私は、建物の間から見える歪な形の空を見上げた。真上の空はまだ青い色をしていた。

視線を落とすと目が合ったので笑ってみた。君も小さく笑った。

 

「って言ったら、気になる?」

 

足を組んだその膝に両手を乗せて、隣に座る君の顔を見た。君は少し驚いた顔をする。

 

「まぁ、気になりますね」

 

本当に気になってるのかしら?と思わせるような淡々とした口ぶり。

 

「実は君より年下なの」

「え?」

 

「私、短大卒業して20歳で就職したから、君より年下」

 

君は一浪して、4年の大学を卒業してから入社したから、私の方が先輩だけど年下なのだ。

 

「ほんとに?」

 

君は驚いた顔をして背筋を伸ばした。急なタメ口に笑ってしまう。

 

その時、コーヒーの用意が出来たと、声をかけられる。

 

先輩たちに頼まれた分と合わせて4杯のコーヒーを、2つずつ紙袋に入れてくれている。

君は両手に紙袋を持って先に店を出た。

 

私には持たせないようにする君の優しさ。

 

がっしりとした背中に私は声をかける。

 

「もう1つ秘密があるの」

 

歩みを止めて君が振り返る。

コーヒーがこぼれないようにゆっくりと。

 

「年齢のことより驚くことなんて、もうないと思うな」

 

そうタメ口で言って、君は柔らかく笑った。

 

私も笑った。そして笑顔のまま言った。

 

 

 

「君に恋をしているの。

……なんて言ったら、気にしてくれる?」

 

【END】