BEANSBOOK1

 

 

『  し お り  』      永田 早紀

 

旅行カバンを取り出すために、押入れに体を半分入れた。ふと上の段を見上げると高校の卒業アルバムが目に入った。

「懐かしい」

おもわず手を伸ばしてしまった。片づけのときや探し物をしてるときに、こうして『寄り道』をする癖がある。

カバーから出して、そっと開いた。 懐かしい思い出が一瞬に蘇る。 おもわず微笑んだ。

アルバムなんていらないと思ってたのに・・・

 

あのころの私は色々と悩んでいて、しんどくて、でも一生残るアルバムに不機嫌な顔を刻みたくなくて、精一杯笑ったのだ。

その時の心の痛みまで蘇ってくる。

「たいした悩みじゃなかったのにね・・ 」

満面の作り笑顔の私を指でなでた。

 

次のページには初恋の彼がいた。 今でも胸がキュッとする。

3年間、同じクラスだった。腐れ縁で、友達で、よく本を借りたっけ。

返す時に「ありがとう」と書いたメモを挟むと、次貸してくれる本に「いえいえ」と書かれたメモが挟まれていた。

今度は「おもしろかった」と書いた。すると「そうか?オレはあんまりだった」と返ってきた。

やがてメモは読書感想文になり、感想文が手紙に変わった。

手紙で見る彼は、普段とは違う誠実さがあって、力強い光が見えた。

そして私は恋をした。

 

 

「旅行の準備してたんじゃないの?」

急に夫に声をかけられて、私はゆっくりと振り返る。

「何見てたの?」と夫が聞く。

「初恋の人の写真を見てたのよ」

そう答えると、夫は驚いた顔をして言った。

「毎日見てても足りないとは、君はずいぶんオレのことが好きなんだね」

 

「まぁね」

 

昔から変わらない彼のこの飄々とした感じ。

昔から変わらない私の想い。

変わったのは私の苗字だけかもしれない。